エレミヤ書32 章36-44 節
わたしは彼らに恵みを与えることを喜びとし、心と思いを込めて確かに彼らをこの土地に植える。(エレ32:41)
わたしたちが生きる「東アジアの平和」を考える時、度外視することができないものが「朝鮮半島の南北分断」状況である。いま、この南北関係の悪化と緊張は最高度に達している。北朝鮮側は韓国を「敵国」と規定し、あらゆる交渉ルートを閉鎖しつつある。
韓国側も「国家保安法」のもとで、北朝鮮との対話を模索しようとする人々への圧力を強めている。もともと一つの民族、家族・親族であった人々が引き裂かれ、米ソ対立の代理戦争(朝鮮戦争)を強いられ、停戦状態のままに、移りゆく世界の片隅で「憎しみ合いの境界」を背負わされてきた。南に生きる「北に家族・親族を持つ」人々とその子孫、北に生きる「南に家族・親族を持つ」人々とその子孫は、その深い悲しみを表すことができず、相手を罵り侮辱する文化・潮流に身を隠し秘めて生きるしかなかった。
雪隠詰めに合わされ続けた北朝鮮は核開発・ミサイル発射実験で必死に自国への干渉を牽制し、またロシア部隊の一員となってウクライナに派兵をする。対抗する尹錫悦政(ユンソンニヨル)権はウクライナへの武器輸出や韓国軍派兵を公言する。「世界の紛争」にそれぞれが接続し、両国の民衆はその紛争がやがて自分たちに戻ってくる事態に繋げられていく。
言わずもがな、38 °線の分断は、日本の殖民地支配の結果だが、日本はその回復への責任を担うどころか、1965 年の日韓条約で韓国だけを国家と承認し、韓国との国交回復と韓国への経済援助のみによって戦後賠償請求権を放棄させ、朝鮮半島の南北分断を決定的にさせてきた。戦前・戦後を通して、朝鮮半島への日本の責任はあまりにも重い。
旧約聖書にも「南北問題」がある。北王国エフライムと南王国ユダとに分断されたイスラエルのことだ。互いが相手を敵とし憎み合う関係に置かれながら、北はアッシリアに、南はバビロニアに滅ぼされていく。大国の興亡に翻弄させられ、それぞれが別々に強国につながり、つながった大国の論理に巻き込まれ、パレスチナの片隅に生きていた「神の民」と自らを自認していた小さな国は潰され消えていった。預言者エレミヤは、こうした「分断と崩壊のイスラエル史」の最終的な場面(バビロン捕囚目前)にあって、「やがて回復の時を迎える」とのビジョンを語る。「共に生きる人が植え直され、共に生きる心が授けられ、他者を労り守る社会への道が通される日が来る」と。それは、いまも、すべての人々にとって「未来のビジョン」と呼ぶべき預言ではないだろうか。吉髙叶