ルカによる福音書1 章26-38 節
天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。」(ルカ1:35)
今年の待降節は、イエスを身ごもったマリアの姿と言葉に注目して過ごしましょう。
ルカが彼の福音書の1 章に描き出したマリアの姿には、ルカ神学の主要なメッセージが凝縮されていると言えます。ルカ文書とは『ルカによる福音書』と『使徒言行録』を指し、この二つは連動しています。その全体を通しての要点は、①神のイスラエルへの救いの約束はイエスによって成就され、教会(エクレシア)によって世界に広がっていった。②そのすべては聖霊の自由な働きと導きによって起こされていく。③それまでの社会的・宗教的な序列(ヒエラルヒー)は逆転し、貧しい者、疎外された者、女性、異邦人などが神の御業の大切な役割を担う。これがルカ神学の明確な特徴です。ルカ1 章の受胎告知と「マリアの讃歌」は、そうしたルカ神学全体の序章としての役割を果たしています。
さて、市川八幡キリスト教会は、今年度のテーマを「いのちに吹く、優しい風に」と掲げて歩んでいます。厳しく冷たい風が吹きつける時代の中で、隣り合わせた人とお互いの痛みをわかちあい、もう少し隣に居合えるようなかかわり方ができ、慰めや励ましの風を交わせるような「わたしたちにしてください」と祈っています。その祈りの中で、主イエスに出会い、神の慈しみに満ちた想いを受け取りたいと願っているのです。そんな私たちが掲げた今年のクリスマス・テーマは「いのちの光にいざなう風」です。「風」、すなわち神の想いの働き(聖霊と言ってもいいでしょう)が、人々に作用して、「いのちの光」に出会っていく(迎えていく)出来事を見つめたいと思っています。その「風」は、唐突であったり、驚きやとまどいをもたらしたり、覚悟や決心を呼び起こしたり、不思議なひらめきへと導いたり、旅の道に招いたり、危険を逸(そ)らさせたり、疲れを包んだり、喜び躍らせたり、といろんな形で人々に吹きつけたり、そよ吹いたりしていきます。
ルカは、「福音書」と「使徒言行録」を通して、神の想い=聖霊の働きが人々に臨むと、人々がそれまでの「救いの枠組み」や「関係の壁」をのびのびと越えていく様子を証していますが、そうした「風が吹く事件の様々」を思い描きながら、また、私たちの望む「やさしい風のようなふれあい」の姿を心に留めながら、クリスマス物語を見つめていきたいと思います。ナザレの娘マリアに吹いた風、その風を受けたマリアが世界に向けて放った風、今年はそれを見つめながらアドベントを過ごしてまいります。吉髙叶