2022年9月4日礼拝「焼き尽くせないもの」

ダニエル書3 章13-25 節

そうでなくとも、ご承知ください。わたしたちは王様の神々に仕えることも、お建てになった金の像を拝むことも、決していたしません。(ダニ3:18)

『ダニエル書』は、新約聖書の中の『ヨハネの黙示録』と並んで黙示文学と称される書物です。夢や幻、記号などを多用し、直截にではなく秘めた形でこれから将来に亘って起こることを予言していく文学形式です。しかし、実際は、ストーリーの舞台を過去の時代に設定し、その時点に立って未来を予言する仕立てにしていますから、「予言の形式を借りた歴史的回顧録」だと言えます。
『ダニエル書』の舞台設定は、新バビロニア帝国が隆盛を極め、ユダ王国は滅びの憂き目に遭い主要な人々がバビロン捕囚されていた時代(紀元前580 年頃)です。そこで生きていた若きダニエルたちの特別な知恵によって、ネブカドネツァル王に未来が告げられていく設定になっています。ただし、『ダニエル書』が書かれたのは紀元前167 年の「マカベア家の大反乱」と呼ばれる事件の直後です。つまり、紀元前580 年から160 年頃までの420 年間の「中東世界」の大国の興亡が予告されている予言的・歴史的叙述となっています。「大国の興亡」の推移を簡単に記しておきますと、新バビロニアがペルシャに滅ぼされ、ペルシャはマケドニアに乗っ取られ、アレキサンダー大王によって世界はヘレニズム化します。が、大王の死後、帝国はプトレマイオス朝シリアとセレウコス朝エジプトに分裂(その分裂の境目がちょうどパレスチナあたりです)。この両者の激しい攻防は6 回にも及ぶシリア戦争を引き起こします。その「勝利者」セレウコス朝の王アンティオコスⅣ世は、それまでどの支配者もが保ってきた「ユダヤに対する宗教的寛容政策」を放棄し、徹底的にユダヤをヘレニズム化します。エルサレム神殿の財宝等を略奪し、エルサレム神殿にゼウスやアポロの像を建て、ユダヤ信仰を迫害・弾圧します。これは、イスラエル・ユダヤ民族がかつて体験したことのない規模の宗教的迫害で、ユダヤ人一人一人に「信仰をとるか生命をとるか」というかなり極限的な決断を迫ったのでした。そして起こったのがマカベア家を筆頭に開始された大反乱「マカベア戦争」でした。歴史の中での「決断状況」に対するユダヤ人の回答が明確に噴出した事件です。
『ダニエル書』は、このように過去から「現在」までの歴史を回顧しながら、しかし未来の予言に仕立てて「この世の支配者と神との間で、いかに生きるのか」というテーマを扱っています。そして、それは単に回顧録に終わらず、さらにそれ以降の歴史、ローマ帝国の支配に移っていく未来に対する黙示的な問題提起でもあったわけです。【吉髙叶】

 

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