創世記25 章19-26 節
その後で弟が出てきたが、その手がエサウのかかと(アケブ)をつかんでいたので、ヤコブと名付けた。(創25:26)
7 月から3 ヶ月間は、『創世記』25 章以下を読んでまいります。『創世記』は大きく「原初史」(1-11 章)と「族長物語」(12-50 章)とに分かれます。「原初史」は生命世界のはじまりと、そこにあった神の想いを描き出すと共に、それに向かい合う(あるいは向かい合えない)人間の様子を神話的に表現しています。「族長物語」は、後に自らを「神の民」と自覚するようになった「イスラエル」が、その先祖たちの人生の道のりを「アブラハム-イサク-ヤコブ-ヨセフ」と代を連ねていく物語として編んだストーリーです。それぞれの登場人物(歴代の族長)たちが直面した「人生の格闘」にまつわる諸伝承(後のイスラエル12 部族に散らばって伝えられてきた諸伝承)が、やがて結合していきました。
「族長物語」の編集の主眼は「神の祝福と約束の成就」ということにあります。「神の祝福と約束」とは「あなたを大いなる国民とする」ということと「あなたがたにカナンの地を与える」というものです。紀元前1200 年頃にカナンに侵入した12 の部族が、紀元前1000 年に統一王国を樹立していく時代にあって、「12 部族連合=イスラエル」が自
らの血統の同族性(同一先祖)とカナン支配の正当性を立証する目的で諸伝承が合体し、さらにはバビロニア捕囚期に捕囚の民が熱望した「カナンへの帰還」というテーマも投影され、父祖アブラムが「カルデア(バビロン)からカナンに」と旅立っていくストーリーとなって整えられていきました。
後代の編集(編集意図)とは別に、それぞれの伝承群は歴史的な事実とも大いにつながっていると思われ、それらの伝承はたいへんリアルかつスリリングで、数にも数えられないような「弱小一族」が、古代世界をサバイブしていく様子が、活き活きと描かれています。また、夫婦、親子、きょうだい間の葛藤や確執もありありと記されていきます。
これからしばらくは「族長物語」の後半にあたる「ヤコブ物語-ヨセフ物語」を読んでまいりますが、気をつけたいことは、現代、シオニストたち(※シオニズム運動)によって運転されている軍事国家イスラエルが、パレスチナを独占支配する野望を果たすために、今まさにガザ虐殺を繰り広げている状況の中で、「イスラエルによるカナン占領」を決して正当化しない「族長物語」の読み方に努めていくことだと思います。吉髙叶
※シオニズム=19世紀にユダヤ人のための故郷をパレスチナに建設するために生まれたナショナリズム運動。