2025年12月21日クリスマス礼拝「飼い葉桶から吹き始めた風」

ルカによる福音書2 章1-20 節

マリアは月が満ちて初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。(ルカ2:6-7)

ルカ福音書が描くイエス誕生の場面は、世界中に吹き付けたすさまじい「風」の記述から始まります。当時の世界を支配していた政治的な暴風のことです。
「そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た」(2:1)。
ローマ皇帝アウグストゥス(本名オクタビアヌス・在位前27 -後14 年)。彼は古代世界に君臨した覇者・独裁者であり、その一言で領土内のすべての人間を一斉移動させられるほどに強大な力を持っていました。世界中に軍を駐屯させ、世界からローマに至る道を張り巡らせ、富みの吸収と分配、政治の集権化を完成させようとしていました。アウグストゥスが企図した「住民登録」、それは単なる人口調査ではなく、課税、徴兵、土地管理を目的とし、更なるローマの支配を盤石にするためのプロジェクトでした。
この権力の暴風は、人々の都合などお構いなしに吹き荒れます。身重のマリアと夫ヨセフもまた、嵐に巻き込まれ飛ばされていく木の葉のようなものでした。ナザレからベツレヘムへの旅。直線距離でも112km。道路距離にして150km の徒歩での道のりは、身重の女性にとってどれほど過酷で危険な旅であったでしょう。しかし、帝国の風は容赦なく吹きつけ、抗う術なく、吹き飛ばされるように二人は旅に出たのです。
強い風が吹けば、飛ばされた落ち葉や砂埃は、建物の隅やくぼ地のような吹きだまりに集まります。ベツレヘムという片田舎、その中にあっても人々の視線の向くことのない岩穴の家畜小屋。そこはまさに、社会の吹きだまりのような場所だと言えましょう。親族たちの家から拒絶され、宿にも居場所を得られない。この世の強い風によって追いやられ、冷たい風によって行き場を失くした者たちがたどり着く、暗く寒く貧しい家畜小屋、それがマリアとヨセフに残された場所であり、救い主の誕生の場だったのです。しかし、その吹きだまりに寝かされた小さな赤子の寝息から新しい風が吹き始めた。それこそが、ルカ福音書が放つ、とてもラディカルなクリスマスのメッセージです。
ローマ帝国は滅び、アウグストゥスの名は歴史の一部となりました。しかし、ベツレヘムの飼い葉桶から吹き始めた「新しい風」は、2000 年の時を超えて、今もなお、世界中の人々の間を吹き渡り、勇気づけています。その風の名はイエス。その風は「いのちに吹く優しい風」、そして、その風の別名を「愛」と言います。吉髙叶

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