ルカによる福音書1 章5-25 節
彼はエリヤの霊と力で主に先立って行き、・・・逆らう者に正しい人の分別を持たせて、準備のできた民を主のために用意する。(ルカ1:17)
ルカによる福音書は、他の福音書と異なり「イエス誕生」までの出来事を豊富に記しています。たとえば「バプテスマのヨハネ」の誕生の次第についても記録している事もその一つです。このようなところに、ルカ文書(『ルカ福音書』と『使徒言行録』)の歴史観というか時間の概念の特徴があらわれています。
ルカは、この世界の歴史を大きく三つに区分しています。それは、①神が預言者や祭司を通して民を導き、メシア待望を整えてきた時代(イエスまでの時代)、②イエスがメシアとして到来した時代(イエスの時代)、③イエスの復活の後、聖霊によって教会が歩んで行く時代(教会の時代)の三つの区分です。それは、世界の歴史の中心(時の中心)は「イエス」であるという歴史観です。
ザカリアとエリサベトは祭司夫婦です。しかも人間として「非のうちどころのない」人物であり「祭司の中の祭司」として紹介されています。また間もなく生まれてくる子どもヨハネは、生まれながらに預言者としての霊能を備えている「預言者の中の預言者」として位置づけられます。つまり、アブラハムを紀元とするイスラエルの歴史を束ね、かつ代表する祭司や預言者として、イエス誕生(登場)の直前に位置づけられ、アロン家の子孫にしてヨハネの母であるエリサベトはイエスの母マリアを祝福し、祭司ザカリアもまた、間もなく誕生するイエスを最大の期待と共に讃えます。加えて、成人したヨハネが、「イエスの靴の紐を解く値打ちすらない」と自らへりくだりながら「イエスの登場の決定性」を指し示していくこと(4 章)などの記事をもって、「それまでの歴史はすべてがイエスに流れ込むのであり、またそれまでのメシア待望の約束は、イエスによって成就したこと」をとても強く印象づけています。更には、他の福音書記者には見られない『使徒言行録』を記す事によって、イエスから始まる新しい時代、新しい関係の世界にまで記述を広げながら、イエスこそ「時の中心」であり、「神の救済の決定点」「人間の歴史の転換点」であることを証ししているのです。これがルカ文書の持つ構図です。
ところで、こうした「時の中心」は、必ずしも「2000 年前のクリスマス(イエス誕生)」の日のことなのだというわけではありません。わたしたち一人ひとりの中で、「自分の中にイエスが生まれ、イエスが生きる」という出来事が生じることこそが、人間が人生に「時の中心」を得ていく事件なのだ、と知らせてくれているのです。(吉髙叶)