ローマの信徒への手紙1 章8-17 節
わたしは、ギリシア人にも未開の人にも、知恵のある人にもない人にも、果たすべき責任があります。(ローマ1:14)
【導入】『ルカによる福音書』から『ローマの信徒への手紙』へ移っていくにあたって―
しばらく『ローマの信徒への手紙』(以後『ロマ書』)を読んでまいります。これまで4ヶ月間、丹念に『ルカ福音書』を読んできましたので、その続編である『使徒言行録』へと続きたいところですが、『聖書教育』誌のカリキュラムに従います。ただし、『ルカ福音書』から『ロマ書』へと移っていくにあたって、両者の関係性について記します。
ルカが『福音書』や『使徒言行録』を記したのは紀元80 年代です。それら「ルカ文書」を読んでいたのは、ほぼ異邦人クリスチャンたちの共同体でした。ですから、ルカには「ユダヤ主義」も「律法主義」も過去のものですし、キリスト教が異邦人たちの間に更に広がって行く予感をもとに、人間の属性を超えて結びついていくイエスの福音を意識して『ルカ福音書』すなわち「ルカによるイエス言行録」を編集し、続いて第二巻の『使徒言行録』を記しました。ルカは、若い日にパウロという伝道者を知っていました。12使徒ではなく、生前のイエスの側(そば)にいたわけでもないパウロが、それどころか元々はクリスチャン迫害者であったパウロが、やがて他のどの弟子よりも熱く「イエスはキリストなり」と宣べ伝えた人物であることを印象深く受け止めていました。ルカは、パウロが伝道の開始当初から「異邦人への伝道」に使命を燃やし、その結果として、世界のあちらこちらに異邦人たちの教会ができてきた事実や、それらの教会が、決して「ユダヤ主義」に萎縮して逆戻りしたりせずに、さまざまな壁を超えて広がっていく、その原動力とも言える福音理解(観点)を、このパウロが生み出したものだと強く感じていました。
ですから『使徒言行録』の中盤から巻末にかけての登場人物の中心はパウロです。パウロが伝道者となる経緯からはじまり、パウロの伝道旅行の様子、さらにはローマに連行されていくところまで、その足跡を追いかけています。まるで、このパウロが登場し、独自の感覚や言行、そして数奇な運命を通して、福音がローマを経て全世界に広がったとの余韻を残すように記録したのです。『使徒言行録』には、ルカのパウロ評価があり、ルカのパウロ理解が入念に記されています。でも、それはあくまでも「ルカのパウロ」なのです。本日より11 回に亘って読んでいく『ロマ書』は、パウロ自身が、その伝道者人生の円熟期にあって、自分の達し得た「福音理解」をまとめた集大成とも言える文書ですが、ルカもまた、この『ロマ書』を読んでいたと思われます。(吉髙叶)