2023年9月10日礼拝「虹をあおいで」

創世記9 章1-17 節

雲の中に虹が現れると、わたしは、わたしとあなたたちならびにすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた契約に心を留める。(創9:15)

創世記の「洪水物語」の最終幕を迎えました。大地をことごとくのみこんだ洪水は涸れ、再び地表が現れます。箱舟の中のいのちたちがあらためられた世界に降り立っていきます。その場面をJ 資料は8 章20 節~ 22 節に、P 資料は9 章1 ~ 17 節に記すのです。
J 資料(ヤハウィスト)は、エジプトを脱出してカナンに入植し、開墾(かいこん)の苦労や先住民族たちとの諍(いさか)いを経ながらダビデ・ソロモン時代の繁栄を迎えたものの、その後の権力闘争の末に南北分断をきたしてしまった道のり(紀元前1200 年~ 900 年)の中で伝承され、まとめられていった資料です。父祖アブラハムの神との出会いと神の約束に生きる信仰、そして出エジプト体験に示された神の解放の業を、民族の原点・要点として想起していく主題をもっています。ですからJ 資料の洪水物語は、J 資料の目的に沿って描かれました。古代帝国から旅立った先達たちが、主ヤハウェに向かい合い、神を礼拝しながら歩んだ素朴な信仰を顧みるために、「新天地での祭壇祭儀」を描きます(8:20-22)。
P 資料(祭司文書)は、北王国イスラエルの滅亡に続いて南王国ユダまでもが滅ぼされ、エルサレム陥落とバビロニア捕囚へと至った経験を抱えて、捕囚期~エルサレム帰還期(紀元前500 年前後)にかけて編集されました。無に帰してしまったような自民族の姿、それは神への背信の結果なのだという悔い改めに立って、もう一度信仰共同体、神との契約共同体の再形成をはかり、やり直していこうとする「宗教的」色彩を強く帯びて編集されました。ですから、P 資料の洪水物語には、P 資料の目的が反映しています。
新バビロニア帝国に完膚(かんぷ)なきまでに敗北し、民族は離散し、宗都エルサレムは神殿も含めて完全に破壊されました。振り返れば、この世界は永らく戦乱と混乱、暴力と殺戮に支配されており、自らも諸大国の興亡に翻弄(ほんろう)され、神に従うより他国の軍事力に忖度(そんたく)してきた結果、アイデンティティの喪失と民族・国家の崩壊を招いてしまった。そんな自らの姿を洪水物語に重ねているのがP 資料の特徴です。「しかし、神はそのような洪水的危機の中にあっても、わずかな捕囚の民を守り、再び祝福をもって生きる場へと押し出してくださった。空の虹を見る度に、二度と繰り返さないと心に刻もう。神は、この世界の創り主、この世界の神なのだ。わたしたちはその世界の中で、神を証しして生きる民。だから、この世界がたとえどうであっても、創造を賛美し、安息日を守り、戒めに従い、神を礼拝する共同体を形成していくのだ」と再出発を期しているのです。吉髙叶

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